逆SSTについて

逆SSTとは

逆SST(SST-R:Social Skills Training-Reversed)とは、出題者(語り手)が自身の行動について、その個人的な理由を問う問題として出題し、その問題に解答者が質問などを行いつつ取り組むことで、他者を外側から一方的に理解するのではなく、他者自身の固有の視点から理解する術を学ぶトレーニングの方法です。

発達障がい児・者のみなさんは、日常的に、多数派である「定型発達者」のものの見方や行動のし方を学び、それに合わせることを強いられる場面が多いと言えます。SST(Social Skills Training:ソーシャル・スキル・トレーニング)も、本来は当事者と支援者の間で当事者が社会の中で暮らすために必要なスキルを対話的に考えながら、当事者の気持ちに沿った形で進めるものですが、現状では、当事者のみなさんが一方的に、定型的な社会のあり方に合わせるためのトレーニングとして機能していることも多く見られます。

本来は、発達障がい当事者の方も非・当事者の方も、話し合いながら、お互いのことを理解し、どのようにお互いが負担なく一緒に共生していけるかを模索していくべきですが、当事者のみなさんの努力が一方的に求められてしまっているのが現状と言えます。

このような社会の状況に対して、逆SST(SST-R:Social Skills Training-Reversed)では、話し合いの中で、非・発達障がい当事者が、発達障がい当事者のことを徹底的に理解する場を設けます。

逆SSTでは、社会で広くみられる「合わせる側=当事者」「合わされる側=定型」といった立場を逆転し、当事者側が握っている絶対的な答え(本人の行動の理由)に対して、回答者である非・当事者が頭を悩ませながら、質問を繰り返す中で当事者の答えに近いものを探っていきます。

これまで、イベントや研修、大学の講義などで逆SSTを実施してきました。(「過去の講座・セミナー」を参照)

また同時に、理論的にも実証的にも研究をつみ重ねてきています。(「逆SST資料集」を参照)

以下では、「逆SST出題前の準備」および「逆SST実施の手順」に分けて、逆SSTを実施する際の大まかな流れをご紹介します。

(注)ただし、実際に実施する際には、ここで書かれた大まかな手順以外にも、調整しておくべきこと、考えておくべきことはあります。逆SSTを実施してみたいが方法が分からない、といった場合には、contact[あっとまーくをいれます]sst-r.netまでご相談ください。

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逆SST出題前の準備

もし可能であれば(人員の都合がつく場合には)、逆SSTの出題は発達障がい当事者である語り手がひとりで考えて出題するよりも、事前に語り手と他の人々(当事者でも定型発達者でも、逆SST実施者側の人間として相談可能な人々)とで話し合いながら問題作成に取り組むのが理想的です。また、可能であれば、逆SST実施時に、語り手以外に調整役としての司会者を置くことも理想です。

  1. 出題案の作成:「語り手」である発達障がい当事者が、自らのある行動の理由をたずねる問題案を作成し、司会者など逆SST実施側の人々と共有します。
  2. 模擬出題・感想:逆SSTを実際に回答者に対して実施する前に、逆SST模擬的に「語り手の答え」を知らない状態で、質問やその行動の理由についてどう想像するのかを出し合ってみるのも有効です。その時の回答や質問を見ながら、実際の回答者にとっての難しさなどをイメージすることもできます。
  3. 解説の作成:難易度や回答者の状況に応じた解説がなされるよう語り手、司会者など主催者側全体で相談を行っておきます。

逆SST実施の手順

逆SSTの進め方は、単純なものです。進め方自体は、クイズをイメージしていただけると分かりやすいと思います。

大きくいえば、①出題→②質問→答えの発表・解説、の3段階に分かれます。

  1. 出題:最初に、「語り手」である発達障がい当事者が、自らのある行動の理由をたずねる問題を、その背景となるエピソードや状況の説明などを交えながら出題します。
  2. 質問:回答者は、その出題に対して、語り手にさまざまな質問を投げかけ、それに対する語り手の回答を参考にしながら、語り手の回答を推測します。質問に限度は無く、時間の許す限り行えます。
  3. 答えの発表・解説:ある程度回答者の回答が見えてきたら、語り手に回答を行い、それに対して語り手は、語り手自身の答えを示し、回答者の回答に対して、その近さを評価します。同時に、単に答え合わせに終わるのではなく、当事者の心情の理解を深めていくために、語り手は解説を加え、必要があれば回答者はさらに、その答えをめぐって、質問を重ねたり、感想を語り手やほかの参加者と共有していくことができます。

(注)回答者には、他の当事者の方が含まれる場合もありますし、ひとりでも複数名でも構いません、。チームで質問や回答を行う場合もあります。

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逆SSTを進めるうえでの注意点:当事者本位で進めましょう!

どんな問題を出すか、どのように説明するか、などについては、逆SSTの出題-回答では、語り手である当事者の意向が最優先となります。
また、逆SSTは「理解」の場です。語り手が抱える日常における問題の解決を手伝う場でも、語り手の行動や考え方を変えようとする場でもありません。ひとまずは語り手の語りを「理解すること」を最優先で考えてください。

逆SSTを進めるうえでの注意点:質問は大事!

「語り手の答え」にたどりつくためには、語り手によって出題時に語られたエピソードだけでは情報が不十分であることが多く、そのため、質問を通じて語り手に回答の参考になる情報を語ってもらうことが重要です。遠慮なく、どんどん質問を投げかけてください。
質問を繰り返すことで、語り手の答えを導き出すためのポイントの探り方や、回答を考える過程で生じた仮説(回答の候補)を確認していくために、どのような質問を投げかければいいのか、といった、質問の投げかけ方も熟達していくはずです。
このことは、逆SSTの場での質問の練習になるだけではなく、日常生活において、当事者の方の気持ちを探っていくときの方法のヒントにもなるはずです。

(注)質問では、たとえば「~という答えで合っていますか?」といった、直接的に答えを確認するための質問は行いません。
(注)遠慮なく、とは言っても、相手への配慮の気持ちはお互いに忘れずに質問-応答しましょう。

逆SSTを進めるうえでの注意点:語り手を理解するための逆SSTです!

逆SSTの場では、語り手の答えを「当てる」ことをめざして考える・質問することが必要ですが、「当てる」ことが最終目標、ではなく、語り手の示す「答え」やその背景として語られる解説を通じて、語り手について理解すること、相手の目線で考えていくコツをつかむことの方が重要です。そのために、語り手の答えや解説を聞いたあとも、そこからさらに質問を重ねたり、回答者の理解が本当に語り手の気持ちに合ったものになっているか確認をしたり、さまざまなやり方で理解をさらに深めていくことが大事です。

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